【SS】私とアルフィノ君


RP設定に基づいたSS(ショートストーリー)です。

・kaede→わたし。歴史好き。
・アルフィノ君→弱冠11歳にしてシャーレアン魔法大学に入学。魔法学やエーテル学、史学などの複数の分野で修士号を取得する天才。



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英雄の朝は早い。
が、史学者の朝は遅い。


今日は冒険を一休み。
英雄、と言われるのは甚だむず痒いが、私にだって一息つきたい時がある。
そんな時、私は自宅にこもる。ラベンダーの匂いがほのかに香る地下室で、古書を紐解き、自分のいるエオルゼアの歴史に埋没するのだ。


ふと意識外で気配を感じる。
無粋な….とは思わない。この気配は私のよく知るものだ。
埋没していた世界《歴史》から舞い戻り、一階に向かう。


「やぁ、突然の訪問で申し訳ない」


扉を開けたと同時にアルフィノ君が謝罪めいた挨拶する。


「折角のお休みを邪魔したかな」


彼が私を慮ってくれているのは普段から感じているが、何かこう遠慮めいたものも感じる。
彼の存在が私の日常を壊すと思われてるなら心外だ。
そんなに短い付き合いでもないだろうに。
クルルさんがするようにからかい気味に返答してみる。


「うっ…そ、そんなことはないよ。ただ単に君のお楽しみの時間を潰してしまったかと思ってね」


慌て気味に答えたアルフィノ君に問題ない旨を答える。
彼の困った顔を見るのも私のお楽しみの時間だ。
クルルさんのクフフ顔が眼に浮かぶ。

おっと、いけない。
年下の美少年をからかうのもほどほどにしないと。
先日いただいたクルザス茶葉にお湯を注ぎながら用件を聞いてみる。


「用件というと、いつものお願いに聞こえてしまうのだが…ちょっと付き合ってほしい所があるんだ」


デートのお誘い?とは茶化さない。
そんなことを言おうものなら話が先に進まないのは目に見えている。
彼の可愛い困り顔は何度も見たいけど、やりすぎは禁物。
大人の女性は引きどころもわかっているのよと内心ふざける。
恥ずかしくて聞けないなんて、そんなことは断じてない。




……


話をよくよく聞いてみると、学会報告の聴講のお誘いだ。
私とアルフィノ君は、時たまエオルゼア各地で開かれている大小様々な学会報告を聞きにいく。
アルフィノ君はどうか知らないけれど、歴史を愛好する私にとって、この地に住まう学者の研究報告は、この地の学問の歴史を知る上で大変貴重な機会だ。戦闘続きの毎日に、頭を動かすことは思いのほかリフレッシュになる。


「詳細なことはわからないけど、エーテライトに関する研究報告らしい」


ふむ。全ての学問に通じるエーテル学。
エーテライトに関する研究というものもあるのか。
エーテライトそのものに関する研究か、エーテライトの活用に関する研究かはわからないが、聞きに行っても面白いかもしれない。アルフィノ君と一緒に、ということは気づかないふりをしてみた。


じゃあ早速行きましょうか、先生。
私はごく普通の顔でそう言った。


「!!!!!」
「せ、先生はやめてくれとあれほど…!」


先生呼びはからかいでも何でもない。
史学者としてアルフィノ君は私の大大大先輩だ。尊敬すべき師だ。
史学の修士号を持っているというだけでなく、その他様々な学問に通じている彼を尊敬しない学者はいない。冒険者の時と史学者でいる時の私は別物だ。これからご一緒するのは学者アルフィノ君なのだから。
本当に、本当にからかいの気持ちはこれっぽちもない。ほんとにね。


「では早速行こうか。いくら学会が午後からだと言ってもそろそろ出ないとまずいだろう」


史学者の朝は遅い。
慣れ親しんだクルザス茶を飲み干して、私たちは家を出た。







……


………


………………





「研究者失格だ!!」


アルフィノ君は怒っていた。
彼の喜怒哀楽は全て見てきたと自負している私であるが、やはり怒っているアルフィノ君を見るのは少し怖い。


「彼の研究自体に意義があることは認めよう。だか、それを軍事利用すべきだと声高らかに宣言するとは!研究者としての矜持はないのか!」


私達が聞きに行った研究報告は、エーテライトの活用に関する研究だった。
ただそれは平和的な活用とは決して言い難いものだった。
正直、活用方法に関する専門的な話はほとんどわからない。
ただ門外漢の私でもエーテライトが戦略的に活用された例は知っている。
そう、エオルゼアの歴史に関する話だ。


ウルダハ史における、ベラフディア内戦……。
第六星暦964年、ベラフディアの双子の王子、ササウェフとササガンの王位継承権を巡る対立が起こった。


「そう、その事件。彼はその事件を根拠にエーテライトの軍事利用の有効性を軽々しく論じた」


内戦が混迷を極める最中、ササウェフの軍勢がエーテライトを使用した際、ササガンの軍勢がエーテライトのひとつを破壊した。その結果、約800名のササウェフ軍兵士が地脈に消え行方不明になったという。
私はヤ・シュトラの顔を思い浮かべる。彼女の目を思い浮かべる。
あの出来事を忘れるメンバーなど、暁にはいない。

つまりエーテライトを介した転移中に、エーテライトを故意的に破壊することで、大量に人を殺すことができるのである。

この発想は別段研究者でなくても導き出せるものだか、そこに現実的な利用方法を提示したのが今回の報告だった。古代のエーテライト技術を理解し、エーテライトの新造も可能な存在――シャーレアンに関わる内容であることは言うまでもないだろう。

そもそも倫理道徳的な問題がある。
シャーレアンで強制転移魔法「エンシェント・テレポ」が禁じられた経緯を知らない学者もいないだろう。しかし、アルフィノ君の怒りはそれだけに留まるものではなかった。


「研究者の研究が軍事利用を前提としていてどうする!」


研究者も人の子だ。
承認欲求が殊更大きい研究者だっている。それが悪いこととも思わない。

研究者も人の子だ。
研究に先立つものがなければ、研究はできない。お金がなければ生きていけない。
研究資金をどこからか調達してくる必要もある。
例えば、軍事利用を強調することで軍関係者からの助成が頼めることもあるだろう。

趣味で歴史を楽しんでいる私とは違う。
私のようにモンスターを倒してギルを稼いだり、物を作ってマーケットで売ったりすることができる人はそう多くはない。クルザス茶葉の扱いだって、調理師ギルドで切磋琢磨して得られた技術である。
自分の技術を売ることは悪いことなのだろうか。


「私は…私は納得できない…」


私は彼がそれを許すことはないだろうと思う。
彼がまだ若いからではない。彼の正義と挫折をこの目で見てきたから。

少し落ち着いてきた彼がポツリと言った。


「すまない。熱くなりすぎたようだ。不愉快な気持ちにさせてしまったね」


私は首をふる。
今日聞いた話は決して無駄ではない。
大量虐殺が机上の空論ではないレベルにきている、そのことが身に染みてわかった。
心配すべきは帝国の兵器だけではない。マトーヤの「エーテル収束器」が頭をよぎった。

ここエオルゼアでは、過去に多くの人が亡くなる被害が定期的に起きている。
それを霊災と呼ぶ。
第七霊災は人為的に引き起こされた霊災であったという。
人が多く死ぬことを霊災と呼ぶのであれば、軍事が発展すればするほど、霊災に近づくとも考えられるのかもしれない。


そんなことを考えながら、私とアルフィノ君は日常に戻っていく。
私もアルフィノ君も戦い続けなければならない。


背後にそうさせている意思があるかのように。


【完】