【SS】私の開幕スキル回し(4.0、詩人)


 

 


―――戦場を駆ける。

誰かが言った。勝敗は早さと速さが別つと。
今回も迅速にことを進めないといけない。
私と彼女の動きもそれを理解したものだった。


「kaedeのこの歌、体が軽くなるね!不思議!」


リセが笑う。
「⓪プロトン」を使用する吟遊詩人は少ないと聞く。
でも私は、戦闘以外で仲間の支援ができるこの歌を気に入っている。
この歌こそが、詩人の、そして私そのものであるとすら思う。


「ふふ、kaedeらしいね」


柔らかな眼差しを向けられる。
透き通るような彼女の碧眼に私はどう映っているいるのだろう。
美しく綺麗な彼女。
真っすぐで純粋な彼女。
そんな彼女を直視し返すことができず、心がチクリとする。


――――私を見ないで。


幸か不幸か、そんな戸惑いの感情は一瞬で霧散した。
ふと彼女の笑顔が消え、右手で私を制止する。


「…………帝国兵だ。kaede、行くよ」


私の返事を待つことなく、リセが颯爽と駆け出す。
敵は彼女の背中を無防備と見るだろうか。
その背中は私に語りかける。預けた背中に隙はないよねと。
その純粋な信頼を裏切らぬよう、私も走り出す。

走りながら「①ブラッドレッター」と「②ストレートショット」で素早く帝国兵2人の頭を射抜く。
「③エンピリアルアロー」で敵の攻撃を避けつつ、さらに敵の集団へと近づく。

リセへの支援も忘れてはいけない。
「④魔人のレクイエム」を奏で、周囲の帝国兵の注意を引く。


「kaede!魔導アーマーだ!そっちをお願い!」


リセが帝国兵をなぎ倒しつつ叫ぶ。
左方から魔導アーマーが金属片を軋ませながら向かってくる。
ふと自らの口角があがっていることに気づく。


私、笑ってる?戦闘中に?


咄嗟にリセを見やる。
目の前の敵に集中している彼女の姿に心底安堵した。




……

………


まず、鏃に毒を塗り込んだ矢を放つ。
魔導アーマーの操縦士に「⑤コースティックバイト」が命中する。
続けて、鏃に風魔法を纏わせた矢を放つ。
「⑥ストームバイト」の風の刃が魔導アーマーの装甲を削り続ける。
これらの矢の命中を確認して、すぐさま「⑦旅神のメヌエット」を奏でる。
この歌はリセを高揚させるだけではない。
私の魂をも振るわせる。
「⑧リフレッシュ」していようとも、この高揚感は隠せない。

「旅神のメヌエット」は、旅神オシュオンの神話を歌った舞曲だ。
自由奔放な性格でありながら、優れた弓の使い手だった旅神の姿を、明るく楽しげに歌うのが特徴であった。


(「明るく楽しげに?」)


ふと自嘲気味な笑みがこぼれる。
今や魔法ダメージも与える極端に簡略化されたこの戦歌に楽しげな要素は一切ない。

「コースティックバイト」と「ストームバイト」で悶え苦しむ敵の姿を見る度に、私の心はざわつく。
血が滾る。
その魂の昂りが最高潮に達した時、私の弓からは最高の矢が放たれる(「⑨ピッチパーフェクト」)。

仲間には歌を奏でることで、詩人としての心「詩心」が高まるんだと説明しているが、歌うだけでこれほどの高揚感が得られるはずもない。

私の心を躍らせるもの、それは敵の悶え苦しんでいる様である。
今も毒に苦悶するあの操縦士を見ると、愉悦に近い感情が私の全身を駆け巡る。
醜く汚い私。
屈折して不純な私。
こんな私は誰にも見せられない。見せたくない。

精神の昂りによって、矢を射る手にも力がこもる(「⑩猛者の撃」)。
私の射る矢は敵の装甲を軽々と貫くようになる。

「コースティックバイト」と「ストームバイト」の効果を維持しつつ(「(⑪アイアンジョー」)、その効果を最大限に活かした嫌がらせのような攻撃も加える(「(⑫サイドワンダー」)。

攻撃を続けながら、歌も奏で続ける。
時には大声でリセを鼓舞する(「⑬バトルボイス」)。
私の内なる残虐性を隠すかのように、大声をあげる。


何かに怯えるように、心も叫びたがっていた。


私は何度も何度も何度も、叫ぶ。
心の中で、叫ぶ。


(「死ね!死ね!死ね!」)


強い言葉とともに重い一撃が敵を貫く(「⑭ヘヴィショット」×2)。
重い一撃を繰り返していると、私の中のエーテルが疼き出す。
私の体から漏れ出したエーテルが、周囲の環境エーテルと共鳴し、無数の巨大な矢を形成する。


「⑮リフルジェントアロー!!」


気づけば隠し切れぬ高揚感とともに、大技を繰り出していた。


その後も攻撃の手はゆるめない。
相手の息の根がとまるまで、矢を射続ける。
「⑰エンピリアルアロー」すらも「⑯乱れ打ち」する。
その全てが敵を射抜く。


「ブラッドレッター」や「ピッチパーフェクト」も可能な限り繰り出していると、魔導アーマーの動きが鈍くなるのを感じる。


「ギギ…ギ…」


もうすぐ鉄塊と化す物体に、私は渾身の一撃「⑱ミザリーエンド」をお見舞いする。
ガタン、と膝から崩れ落ちるように魔導アーマーが機能を停止した。
操縦士は泡を吐きながら絶命していた。

私は酷く冷たい目で鉄塊を見下ろす。
まだ、「賢者のバラード」も「軍神のパイオン」も奏でていない。
「トルバドゥール」を使うまでもなかった。私は物足りなさを感じつつ、リセの元に向かう。


ふと、物足りなさを感じた自分、屠った敵への冷めた自分に、戦慄する。
足元がぼやけだす。私は必死に自分を諭そうとする。


大大大。上手くやった。
リセのサポートはできていたはずだ。

私は誰かの手助けがしたくて、吟遊詩人の道を選んだんだ。
決して戦闘狂いなんかではない。


ゼノスの言葉が浮かんでは消えた。


何度も何度も確かめながら、私は「プロトン」を奏でた。
それは戦いが終わった証。
私が吟遊詩人である証。
私が私である証。


戦闘を終えたリセが汗を拭いながら呟いた。


「kaedeのその歌、ほんとに好きだな」


「プロトン」を好きだと言ってくれるリセ。
独り言のような彼女の言葉は、「時神のピーアン」でも癒すことのできない私の弱った心を優しく包み込む。
リセは両手を広げ、天を仰ぐ。
私の奏でたメロディーを全身で受けとめるかのように。


私は一人じゃない。
一人じゃなければ大丈夫。


仲間の存在が私を吟遊詩人として繋ぎ止めてくれている。



【完】